がんは、患者はもちろん家族の生活や精神面・経済面にも大きな影響を与えます。治療にもさまざまな選択肢があり、一般的には医師に委ねられるものの、個人の意思も尊重されます。
シリーズ2回目はがん治療の効果を示す指標の1つ「奏効率(そうこうりつ)」を中心に、がん治療の「今」についてお届けします。
がん治療の効果を示す指標「生存率」「奏効率」
がん治療の効果を示す指標には「生存率」と「奏効率」があります。
「生存率」は言葉の通り、がんと診断されてから生存している人の割合を示します。例えば、5年生存率が90%であれば、5年後に10人中9人が生存していることになります。
一方で「奏効率」は、放射線や抗がん剤などの治療後にがんのサイズがどれくらい縮小したかを示すものです。抗がん剤の奏効率が30%なら、後述する「完全奏効」「部分奏効」の状態の患者が全体の30%いたということにすぎません。医療側にとってはより有効な治療を行うための指針になるので有効な指標ではありますが、患者にとってはあまり意味を成しません。なぜなら、奏効率は決してがんが治る確率ではないからです。がんの種類にもよるとはいえ、腫瘍のサイズの大小は生存率に直結しないことに注意が必要です。次項で詳しく見ていきましょう。
「奏効率」とは?
奏効率は、完全奏効(CR)・部分奏効(PR)・安定(SD)・進行(PD)の4つに分類されます。(CRの患者数+PRの患者数/治療患者総数)×100で計算します。
CR(Complete Response:完全奏功)
完全に腫瘍が消失した状態
PR(Partial Response:部分奏功)
腫瘍が全体の30%以上消失した状態
SD(Stable Disease)
腫瘍の大きさが治療前と変わらないか縮小率が30%未満もしくは増大率が20%未満の状態
PD(Progressive Disease)
治療前と比べて腫瘍が20%以上大きくなった状態、もしくは新病変が出現した状態
例えば、抗がん剤Aは40%、Bは30%という奏効率ならAの方が効果的に思えますが、がんにも患者によって個性があります。AよりもBのほうが効果があるケースもあるので単に奏効率の高さで薬剤の良し悪しを比較することはできません。 また、CRが治癒というわけではありません。一旦検査の画像で腫瘍の消滅を確認できたとしても、その後に再発することがあります。一般的に治癒とは、5年以上の経過観察で再発・転移がみられない状態を指します。
がん治療の現状
近年では、先進医療や新薬の開発などによりがんは不治の病ではなくなってきたイメージが先行しています。しかし、一般的な抗がん剤治療でCRに至るケースは極めて少ないのが現状です。例えば悪性腫瘍による死因の上位を占める膵がんであれば、5年生存率はわずか7%。特にステージ4で発見された場合やがんが再発した場合は、標準治療の1つである抗がん剤治療でがんが治癒するケースはほぼなく予後は悪いとされています。
標準治療から複数の治療法を組み合わせて治療した結果病状が回復したように見られるケースもありますが、それは治癒ではなく「延命治療(延命を目的とした医療行為)」の可能性があります。そこで今注目されているのが「自由診療」です。
自由診療では公的な医療保険制度は適用されません。しかし、海外などで効果が確認されている新たな治療法や化学療法などの最先端の治療を選択できます。ただし、エビデンスや無増悪生存期間(治療中および治療後に病勢が進行せず安定した状態の期間)などのデータはまだないので、あくまでも自己責任です。自由診療が標準治療以上に治療成績が良いということではなく、ケースバイケースであることを患者も納得した上で選択する必要があります。 がん治療における自由診療について、代表的なものに「がん遺伝子パネル検査」と「放射線照射(陽子線やサイバーナイフ)」があります。詳しく見ていきましょう。
・がん遺伝子パネル検査
次世代シークエンサーを用いて患者のがん組織や血液からDNAなどを取り出し、複数の「がん関連遺伝子」の変化を解析します。患者一人ひとりのがんの特徴を知ることができ、効果が期待できる薬がある場合には臨床試験などでその薬の使用を検討します。アメリカではメジャーな検査であり、日本でも2019年6月から保険診療で実施できるようになりました。 ただし日本の場合の保険適応は「標準治療がない、もしくは終了した(終了見込み含む)症例」に限られ、また保険では生涯で1回しか実施できません。本来ならがん発覚時に検査を実施すれば効果が期待できるにもかかわらず、現状では後手でしかないのが残念なところです。
自費診療のがん遺伝子パネル検査なら患者一人ひとりに合ったオーダーメイドのがん治療が叶います。なお、腫瘍の遺伝子は経時的に変化するため、繰り返しパネル検査を行うことが推奨されています。
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・放射線照射
放射線治療には、体の外から放射線をあてる「外部照射」と、体の内側から放射線をあてる「内部照射」があります。外部照射と内部照射を組み合わせて行うこともあります。先端医療機器として、がんの病巣だけを集中して治療する「陽子線」や、患部のみに放射線を照射する「サイバーナイフ」があります。
放射線治療は原則的に標準治療として行われますが、先端医療機器については公的保険が適用されない可能性もあります。一般的には外科的手術よりも身体へのダメージが少ないとされているものの、重篤な副作用を生じる場合もあるので、患者は主治医や放射線腫瘍医に確認する必要があります。
医師のスタンス・患者のスタンス
奏効率はデータなので、そのパーセンテージが自分や愛する家族に当てはまるとは限りません。一方で、標準治療もケースによっては患者のQOL向上には結びつかない可能性もあります。患者の予後を司るとも言っても過言ではない医師は、標準治療のメリット・デメリットを患者に伝えた上で、自由診療も含めて最良の治療法を提案することが求められます。外科手術を選択するとしても、腫瘍を取り除くだけでは再発のリスクもあります。
また、患者サイドにもセカンドオピニオンを求めるという手段があります。ただしセカンドオピニオンも、標準治療を行っている医療機関に転院したなら標準治療を繰り返すことも考えられます。
より治療の選択肢を広げたいなら、自由診療にも目を向けて良いかもしれません。
早期発見・早期治療の重要性
がん患者のQOLを考えた時に何よりも重要なのは、早期発見・早期治療です。
がんの外科手術は、1回につき患者はフルマラソン1回分ほど体力を消耗すると言われています。つまり、患者は精神的苦痛に加えて身体的苦痛も伴います。
それならば、手術が必要な段階に至る前に定期的なスクリーニング(病気を見つける目的で行う検査)を行い、リスクマネージメントを行うことが患者にとって最適解と言えます。
しかし膵がんのように、画像検査だけでは見つかりにくいがんもあります。標準治療でカバーできないということもあります。
自費であっても先進治療を提案しているクリニック等で定期的に精密な検査を行うことががんの早期発見・早期治療につながります。結果的に治癒率および生存率も向上する可能性もあります。セカンドオピニオンも活用しながら、がんの早期発見・早期治療につなげましょう。
がんは「治る」病気ではないかもしれません。それでも早期発見・早期治療と、治療法の選択をすることで愛する人と一緒にいられる時間は増えるはずです。