これからの季節に気をつけたい、「光老化」とは?
光老化(ひかりろうか)とは、太陽光線(紫外線・可視光線・赤外線)の中でも、特に紫外線を長期間浴び続けることによって生じる肌ダメージのことを指します。
紫外線によって体内に作られた活性酸素が過酸化脂質※1と酸化ストレス※2を増産し、肌の機能低下と肌ダメージを引き起こすというのが光老化のメカニズムです。
※1:紫外線や熱の影響により皮脂腺からしみ出して酸化した皮脂
※2:活性酸素などの酸化原因物質が身体に与える悪影響。身体のサビ。炎症や感染、大気汚染、紫外線、生活習慣などによって増大する
SIRT1とNMNの関係
深いしみやシワ、たるみなどの肌ダメージの約8割は加齢ではなく紫外線による光老化といわれており、光老化の深刻度は紫外線を浴びた時間と強さに比例すると考えられています。特に顔や手などの皮膚はほかの部位よりも露出が大きく、長時間かつストレートに紫外線を浴びる傾向にあるため、光老化の影響を受けやすくなっています。
そこで2018年、NMNを投与してSIRT1を活性化させた高齢マウスと、NMNを投与しない高齢マウスの四頭筋組織を観察し、毛細血管密度と筋繊維、持久力を比較する研究が行われました。
実験の内容
フェロトーシス(下にて説明)は、神経変性疾患や虚血性疾患などさまざまな疾患の発症や組織損傷に関与する一方で、鉄や活性酸素を豊富に含むがん細胞の除去機構としても有用なことが分かっています。しかし、紫外線による過酸化脂質と酸化ストレスの蓄積が皮膚のフェロトーシスにつながり、肌の機能低下とシミ、しわ、たるみなどの光老化を引き起こすかどうかについては明らかになっていません。
そこで実験では、体毛の一部を剃ったマウスを「UVB※1無照射マウス」と「7日間UVBを照射してフェロトーシスを誘発したマウス(紫外線照射誘発性皮膚損傷マウス)」に分けました。さらに紫外線照射誘発性皮膚損傷マウスを①紫外線照射のみ(UVマウス)②紫外線照射+Lip-1※2(UV+Lip-1マウス)③紫外線照射+400 mg/kg/日のNMN を経口投与したマウス(UV+ NMNマウス)の3グループに分け、それぞれの7日後の皮膚の状態と、過酸化脂質および酸化ストレスの原因である鉄の蓄積レベルについて調査しました。
※1:地表に降り注ぎ肌に悪影響をもたらす紫外線のうち、主に肌の表皮にダメージを与える紫外線。屋外での日焼けの主な原因となるため「レジャー紫外線」とも呼ばれる。サンバーン(日焼けによる炎症反応)やサンタン(色素沈着反応)などを引き起こすほか、皮膚がんとの関与も指摘されている。4~9月がピーク。一方、紫外線の約9割を占め、肌の真皮層にまで到達する紫外線はUVAと呼びUVBと区別する。窓やガラスを透過するため「生活紫外線」とも呼ばれる。シワやたるみの原因となる。1年中降り注ぐ ※2:フェロトーシス阻害剤。フェロプトーシス誘発剤から細胞を保護する作用を持つ
2012 年にコロンビア大学のストックウェル教授らによって報告された、鉄依存性の細胞死。 細胞内に鉄依存の過酸化脂質が蓄積すると、過剰な鉄が細胞膜の脂質の酸化ストレスを促進し、最終的には細胞が死に至ると考えられている現象です。
フェロトーシス化した細胞付近の細胞にも過酸化反応が伝染することで、まるで風邪が感染るように周りの細胞も連鎖的に細胞死を誘発します。
実験から得られた結果
■紫外線の照射はフェロトーシスを誘発する
UVBを照射したマウス(紫外線照射誘発性皮膚損傷マウス)の皮膚は、すべてのグループにおいて過酸化脂質と鉄のレベルが上昇し、フェロトーシスが確認されました。
表皮のケラチノサイト(角化細胞)※5にも過酸化脂質と鉄の蓄積が観察されましたが、フェロトーシスは見られませんでした。これは、ケラチノサイトが紫外線照射の影響を受けにくいことを示しています。
※5:表皮を構成する細胞の90%以上を占める角化細胞。皮膚の水分保持やバリア機能維持において重要な役割を果たす。 後に分裂する細胞に徐々に押し上げられて角層に到達し、自然にはがれ落ちる(ターンオーバー)
■7日後の皮膚の状態の評価
紫外線を照射したケラチノサイトを、鉄過剰状態を模倣(再現)するクエン酸第二鉄アンモニウム (FAC) で繰り返し刺激したところ、ケラチノサイトはフェロトーシスに至りました。
一方で、NMNを400 mg/kg/日経口投与したUV+ NMNマウスはNAD+/NADHの不均衡がそれほど起こらず、フェロトーシスと皮膚損傷も軽微でした。また、クエン酸第二鉄アンモニウム (FAC) によって誘発されたGSHレベル※の低下にも回復が見られました。
※:アミノ酸化合物の一種であるグルタチオンのレベル。活性酸素によるダメージから身体を保護する抗酸化作用のほか、解毒作用がある。酸化ストレスを測る指標であり、GSHレベルが低下すると抗酸化ストレスが引き起こされ、細胞が死滅する
※グラフ・写真は論文原文より改題
NMNは光老化の予防・改善に寄与する可能性がある
この実験では、紫外線がフェロトーシスを誘発して皮膚損傷を発症させること、NMNがフェロトーシス耐性を強化するとともに酸化ストレスから細胞を保護し、皮膚損傷を抑制したことを報告しています。すなわちNMNは、酸化ストレス誘発性皮膚疾患または障害を治療するための有望な治療法となる可能性があります。
なお今回の実験では、NMNを経口投与して上記の効果を得ましたが、NMNを皮膚に直接塗布した場合、肌表皮の天然保湿因子(NMF)の生成が促進されるという報告があります。
紫外線による日焼け後のアフターケアとしても保湿は有効なため、ぜひインナーケア、アフターケアにNMNを取り入れてWで紫外線による光老化を予防・改善しましょう!
【参考】 参考論文:【NMN recruits GSH to enhance GPX4-mediated ferroptosis defense in UV irradiation induced skin injury】
直訳:NMNはGSHを動員して、UV照射誘発性皮膚損傷におけるGPX4媒介フェロトーシス防御を強化する
雑誌名・巻号/Biochim Biophys Acta Mol Basis Dis. 2022 Jan 1;1868(1):166287.
論文URLはこちら(PubMed)
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/34626772/